2026年9月23日、ドバイ最大のフリーゾーンDMCCが「財団(Foundation)規則」を制定しました。UAEで財団を作れる場所は、DIFC・ADGM・RAK ICCに続いて4つ目になります。
「財団」といっても慈善団体ではありません。UAEの財団は、家族の資産を守り、次の世代に渡すための「資産の器」です。この記事では、ニュースの中身と、財団を作ると何がどう良くなるのかを、図と表でできるだけ平易に説明します。
- 何が起きた? DMCCでも財団が作れるようになった(UAEで4つ目:DIFC・ADGM・RAK ICC・DMCC)。最低資産は100ドル、受付は数週間以内に開始
- 財団とは? 株主のいない法人。資産は財団名義になり、設立者が決めたルールで家族のために運用される
- 最大のメリット 設立者が亡くなっても、口座凍結も裁判所の相続手続きもなく、資産は財団に残ったまま家族のための運用が続く
- 注意点 維持費は年数千ドル〜、初年度は数万ドル規模になることも。資産が少なければDIFC遺言で十分なことが多い。日本の相続税は別途かかる
DMCCが発表した内容
| 規則の制定 | 2026年9月23日(6月12日に予告) |
|---|---|
| 受付開始 | 手引きとオンライン登録を「数週間以内」に開始予定 |
| 最低資産 | 100米ドル |
| 法人格 | 設立者・評議会・ガーディアン・受益者から独立した法人。財団名義で資産を保有 |
| 設立者の権限 | 投資判断・役員の任命・受益者の指定などを設立者(または指定した人)に残せる |
| 資産の保護 | 外国の強制相続ルールや、規則と矛盾する外国判決からの「ファイアウォール」。詐害的な移転は保護されない |
| 登録エージェント | DMCC内に登記上の事務所があれば不要 |
| 裁判所 | 原則DIFC裁判所。特定の請求は3年の出訴期限 |
DMCCのアハメド・ビン・スレイエム会長兼CEOは、この規則を「現代的で国際基準に沿った制度」と位置づけています。DMCCは2025年にSPV・ホールディング会社のライセンス、同年9月に「Wealth Hub」、11月に金融ハブ「FinX」を立ち上げており、財団はその仕上げにあたります。登録企業は2万5,000社超です。
財団とは何か|3分でわかる仕組み
資産を財団に移すと、法律上の所有者はあなたではなく財団になります。だから、あなたに何かあっても資産は相続の対象にならず、離婚・債務・訴訟といった個人のトラブルからも切り離せます。運営は、あなたが定款と細則に書いたルールどおりに進みます。
4つの役割
会社・トラストとどう違う?
| 会社 | トラスト(信託) | 財団 | |
|---|---|---|---|
| 法人格 | あり | なし(受託者が所有) | あり |
| 所有者 | 株主 | 受託者 | 財団そのもの |
| 亡くなったとき | 株式が相続の対象 | 原則対象外(設計による) | 相続の対象外 |
| 存続期間の上限 | なし | 多くの国で上限あり | なし(永続可) |
| 向く用途 | 事業の運営 | 英米法圏の資産承継 | UAE資産の承継・保護 |
ルールは2つの文書で決めます。定款(Charter)=名前・目的・基本構造を定めた公開文書。細則(By-laws)=「誰に・いつ・いくら分配するか」を定めた非公開文書。家族の事情は細則に書くので、外からは見えません。
UAEで財団を作る7つのメリット
財団の資産は相続財産ではないので、口座凍結も裁判所の手続きもない。細則どおりに分配と運営が続く。
外国の強制相続ルールや、制度と矛盾する外国判決から財団資産を遮断。債権者を害する意図の移転は対象外。
無期限で存続可能。「売らずに賃料で子や孫を支える」設計ができる。
誰が決め、誰がいくら、どんな条件で受け取るか、事業を売れるのは誰か。口約束を細則にできる。
公開されるのは定款の基本情報だけ。受益者や分配ルールは非公開。株主名簿もない。
UAE法人税(9%)は原則かかるが、「ファミリー・ファウンデーション」として申請し要件を満たせば、所得は受益者個人のものとみなされ、原則として個人には課税されない。
DIFC・ADGMの財団は、DLDとの覚書によりフリーホールド物件を財団名義で登記できる。DMCC財団は今後のガイダンス待ち。
オーナーに万一のことがあったら|個人名義と財団名義の違い
| 個人名義で保有 | 財団名義で保有 | |
|---|---|---|
| 銀行口座 | 原則、凍結される | 財団の口座として継続 |
| 不動産・賃料 | 名義変更まで動かせない | 財団が管理を継続 |
| 手続き | 裁判所の相続手続き(遺言があっても期間はかかる) | 相続手続きなし |
| 誰が受け取る | 遺言がなければ法定分割(ムスリムはシャリーア、非ムスリムは民事身分法) | 細則に書いたとおり |
| 事業会社の株式 | 相続人に分散 | 財団が一括保有、分散しない |
UAEでは、遺言(DIFC遺言・ADJD遺言)を登録しておけば「誰が受け取るか」は指定できます。ただ、亡くなってから手続きが終わるまでの期間はなくなりません。その期間自体をなくすのが財団です。
不動産を財団に入れるときの費用も押さえておきましょう。すでに個人名義で持つ物件を財団へ移す場合、DLDの手数料は通常の売買(4%)ではなく、贈与登録の料率(評価額の0.125%、最低AED 2,000)が適用されることが多いとされます。ただし料率は案件ごとにDLDが判断します。
DIFC・ADGM・RAK ICC・DMCC|4制度の違い
UAE全体ではすでに3,000以上の財団が登録され、最も実績のあるDIFCは2026年6月末時点で1,409財団(前年比+67%)です。
| DIFC | ADGM | RAK ICC | DMCC | |
|---|---|---|---|---|
| 制度開始 | 2018年 | 2017年 | 2019年 | 2026年9月 |
| 場所 | ドバイ | アブダビ | ラスアルハイマ | ドバイ(JLT) |
| 裁判所 | DIFC裁判所(英米法) | ADGM裁判所(英米法) | DIFC/ADGM裁判所を選択可 | 原則DIFC裁判所 |
| 最低資産 | 法定の下限なし | US$100 | US$100 | US$100 |
| 登録エージェント | 任意 | 必須 | 必須 | DMCC内に事務所があれば任意 |
| ドバイ不動産の保有 | 可(DLD覚書) | 可(DLD覚書) | 要個別確認 | ガイダンス待ち |
| 登録数 | 1,409(2026年6月末) | — | — | 新設 |
出典:各規制当局の公表資料、M/HQ「DMCC Foundation Regulations 2026」、Enterprise(2026年9月24日)、Ancova Associates「DIFC Foundation 2026」。2026年10月5日時点。要件・料金は変更される場合があります。
DMCCは発足したばかりで、料金表や実務の運用はこれから固まります。急ぎでなければ、ガイダンスの公表を待ってから4制度を見比べるのが安全です。
財団が向いている人、遺言で十分な人
- UAEに複数の不動産・事業会社・金融資産がある
- 相続人が日本と海外に分かれている
- 事業承継や一族のルール作りを考えている
- 本国の遺留分・強制相続から資産を切り離したい
- 資産を売らずに世代をまたいで持ち続けたい
- UAEの資産がマンション1〜2戸と銀行口座程度
- 分配先がはっきりしている
- 年間の維持費をかけたくない
- → 遺言の作成・登録は当社の相続・承継サポートでご案内
費用の目安(DIFCの例)
| 登録料 | 初年度 US$350、2年目以降 年US$650程度 |
|---|---|
| 登録事務所(必須) | 年およそUS$6,000 |
| 定款・細則の起草、評議会・ガーディアンの報酬、年次コンプライアンス | 内容により変動。合わせると初年度は数万ドル規模になることも |
| 不動産を入れる場合 | DLDの手数料(多くは贈与登録の0.125%、最低AED 2,000)+NOC費用 |
設立の流れ|6ステップ
- 目的と資産を棚卸しする何のために(相続・事業承継・資産保護)、何を入れるか(不動産・株式・口座)
- 制度を選ぶDIFC/ADGM/RAK ICC/DMCC。不動産が主ならDLDでの登記実績を確認
- 定款と細則を作る評議会のメンバー、ガーディアンの要否、受益者と分配条件、設立者が残す権限。弁護士の関与が実質必須
- 登録する規制当局へ申請、登録事務所またはエージェントの手配、本人確認書類。DIFCの標準処理は数営業日
- 資産を移す不動産はDLDで財団名義へ(NOC・手数料)、口座は財団名義で開設、株式は名簿を書き換え
- 毎年きちんと維持する年次の確認書・ライセンス更新、会計記録、法人税登録と(該当すれば)ファミリー・ファウンデーションの年次確認
不動産を財団に入れる場合は、物件の選定・購入・名義変更の実務を当社が、財団そのものの設計を提携法律事務所が担当します。「この物件は財団で持つべきか、個人名義+遺言でよいか」という入口のご相談からどうぞ。
よくあるご質問
DMCC財団は、いつから設立できますか?
規則は2026年9月23日に制定済みで、DMCCは手引きとオンライン登録を「数週間以内」に開始するとしています。本記事執筆時点(2026年10月5日)では、料金表や申請様式は未公表です。
UAEに住んでいなくても財団を作れますか?
はい。非居住の個人・法人も設立者になれます。本人確認(KYC)書類は必要です。
財団を作れば日本の相続税はかかりませんか?
いいえ。日本に住む方や日本に住む相続人には、海外資産でも日本の相続税・贈与税がかかります。財団への財産移転そのものが贈与税の問題になるケースもあるため、国際税務に詳しい税理士にご相談ください。
財団と遺言(DIFC遺言)はどう使い分けますか?
遺言は「亡くなった後に誰が受け取るか」を決める低コストの書類。財団は「生きている間に資産を別の法人へ移し、永続的に管理する」仕組みで、相続手続き自体を不要にできますが維持費がかかります。資産が少なく分配先が明確なら遺言、複数資産・事業・複数国の相続人がいるなら財団が候補です。
財団名義でドバイの不動産を買えますか?
DIFCとADGMの財団は、DLDとの覚書にもとづきフリーホールド物件を財団名義で登記できます。新規購入も、個人名義からの移転も可能です。RAK ICC財団は案件ごとにDLDで登記可否を確認し、DMCC財団は今後のガイダンスで手続きを確認する必要があります。
設立者が亡くなったあと、誰が財団を動かすのですか?
定款・細則に従って評議会が運営を続け、ガーディアンが監督します。設立者が残していた権限は、指定した後継者に引き継ぐか消滅させるかを、あらかじめ定款で決めておきます。
本記事は、2026年10月5日時点の公開情報——DMCCの発表(2026年6月12日・9月23日)、Gulf Daily News/Enterprise/Economy Middle East等の報道、M/HQおよびAncova Associatesによる制度解説——をもとに、一般的な情報提供を目的としてまとめたものです。法律・税務の助言ではありません。財団の要件・手数料・税務上の取扱いは変更されることがあり、個別の事情によって結論が変わります。設立の判断は、UAEの弁護士および国際税務に詳しい税理士にご確認ください。当社は不動産ブローカーであり、財団の設立・法律業務は提携法律事務所が行います。

