海外の不動産と聞くと、「契約や書類でだまされないか」が一番の不安かもしれません。その点、ドバイは安心材料が大きい場所です。物件の登録や所有の記録は、政府(DLD=ドバイ土地局)の仕組みのなかでデジタル化・ブロックチェーン化されており、誰が見ても同じ事実を確認できる透明性があります。日本でありがちな「言った・言わない」のトラブルにはなりにくい構造です。とはいえ、何も準備しなくてよいわけではありません。各段階でどんな書類が発生するのか、何を自分で確認・保管しておけば安心なのかを知っておくことが、結局いちばんの防御になります。本記事では、購入の流れに沿って、契約と「証跡(記録)」の押さえどころを整理します。
1. オフプラン購入の流れと、各段階の書類
完成前(オフプラン)の物件は、次の順番で進みます。
① EOI(予約)
人気物件は、販売開始(ローンチ)の前にEOI=予約金を払って申し込みをします。少額を払って「買いたい」という意思を示し、部屋を押さえにいく段階です。
② ユニット確定 → 頭金20%+SPA署名
「ユニットが取得できました」となったら、頭金として概ね20%を支払い、ここでSPA(売買契約書)に署名します。このとき、DLDの登録料4%も一緒に支払うのが一般的です。
- 頭金は、デベロッパーの口座ではなくエスクロー口座(第三者が管理する保全口座)に入ります。
- DLD登録料4%は、いったんデベロッパーに支払い、デベロッパーが代わりにDLDへ納める流れです。
③ Oqood(オークード)登録
SPAのあと、Oqoodが登録されます。これは完成前の「暫定的なタイトルディード」にあたるもので、あなたがその物件の購入者であることを公式に記録するものです。
④ 完成・ハンドオーバー → タイトルディード発行
物件が完成して引き渡し(ハンドオーバー)が済むと、正式な権利書であるタイトルディードが、あなたの名義で発行されます。
2. Oqoodとタイトルディード ― 証跡の中核
この2つは、あなたの所有を証明する最も重要な記録です。
Oqood(完成前):Oqoodは、デベロッパーがDLDへの登録を完了すると発行されます。重要なのは、Oqoodが出ていないと、完成前のリセール(転売)はできないという点です。「買ったはずなのに登録されていない」ということがないよう、登録が完了しているかは必ず確認してください(確認方法は次のセクション)。
タイトルディード(完成後):完成・ハンドオーバー後に発行される正式な権利書です。セカンダリー(中古)で購入した場合も同じで、購入が完了すれば新しいオーナーの名義でタイトルディードが発行されます。プライマリー(新築)かセカンダリーかで、権利移転の書類が変わるわけではありません。
3. ブロックチェーンで「誰でも確認できる」透明性
ドバイの大きな強みが、ここです。Oqoodもタイトルディードも、DLDのブロックチェーン基盤の上で記録されています。物件単位で、売買・賃貸の取引履歴や登録ステータスがクリアに記録され、関係者が確認できる仕組みになっています。
- 公開されるのは「物件単位の情報」(登録の有無、取引履歴、ステータスなど)です。所有者名などの個人情報は公開されません。あくまで物件の記録です。
- 登録が完了すると、その時点でサイト・アプリ上に反映されます。
自分で確認できる場所
- Dubai REST アプリ
- DLD(ドバイ土地局)公式サイト
ここで、自分の物件の登録状況を確認できます。さらに、オフプランでは建設の進捗(建設率)も確認でき、DLDが第三者の立場で、プロジェクトごとに数ヶ月に一度ほど進捗レポートを公表しています。売り手の言葉だけに頼らず、公式の記録で裏が取れるということです。
4. それでも「自分で残しておくべき」証跡
記録が透明とはいえ、お金を払った証拠は、自分でも必ず残してください。ここがいちばん実務的に効きます。
- 支払いのたびに証拠を残す。 カードで払ったら支払い完了画面のスクリーンショットを、銀行送金やWiseで送ったら送金の控え(証憑)を、なくさないように自分で保管しておきます。
- やり取りは口頭でなく、書面・メールで。 後から確認できる形にしておくことが大切です。
なぜここまで言うかというと、デベロッパー側から「支払いが反映されていない」と言われることが、実際にあるからです。そのとき、支払った証拠さえ手元にあれば対応できます。(証拠を出してもなお、なかなか理解してもらえないこともありますが、記録があれば最終的には解決に向かいます。こうした場面は、私たちのほうでもしっかりサポートします。)
5. SPA(売買契約書)に署名する前のチェック
署名前に突き合わせるべきは、ひと言でいえば「全部」です。とくに次は必ず確認してください。
- 氏名のスペル(実際に間違っていることがあります)
- 住所・電話番号などの個人情報
- 物件・ユニット番号、面積
- 支払いスケジュール(建設率連動か期間ベースか)
- 建設遅延時の保証の内容
- サービスチャージ(管理費)の扱い
一文字のスペル違いでも、後の手続きで支障が出ることがあります。説明された内容と、契約書の記載が一致しているかを、面倒でも一つずつ確かめてください。
6. セカンダリー(中古)の契約と注意点
手続きはデジタルで完結します。 セカンダリーの契約に使うForm F(MOU=売主・買主間の合意書)はオンライン上で行うもので、紙の書類は基本的に必要ありません。ドバイは書類のデジタル化が進んでおり、紙でのやり取りはほとんど発生しません。
そのうえで、セカンダリーならではの注意点があります。売主(前のオーナー)が、サービスチャージなどを滞納していないか、重大な事実を隠していないかです。これを避けるために、
- 契約書(Form F)に、サービスチャージは売主が引き渡しまでにクリアにすることを明記する。
- もし清算されていなかった場合のペナルティ(対応)まで、あらかじめ書いておく。
このように、「後で問題が起きたときにどう対応するか」を契約書に盛り込んでおくことで、自分を守れます。
まとめ:契約と証跡のチェックリスト
流れと書類:EOI(予約)→ 頭金20%+SPA+DLD4% → Oqood登録 → 完成後タイトルディード、の順を理解しているか。頭金がエスクロー口座に入る契約になっているか。Oqoodが登録されているか(完成前のリセールには必須)。
確認(公式の記録で裏を取る):Dubai REST アプリ/DLD公式サイトで、自分の登録状況を確認したか。オフプランは、建設率・DLDの進捗レポートで進み具合を確認しているか。
自分で残す証跡:支払いのたびに、完了画面のスクショ・送金控えを保管しているか。重要なやり取りは、口頭でなく書面・メールで残しているか。
契約書のチェック:SPAの氏名スペル・物件番号・面積・支払い・遅延保証・サービスチャージを突き合わせたか。(セカンダリー)売主のサービスチャージ清算とペナルティを契約書に明記したか。
ドバイは、所有や取引の記録が公的にデジタル化・ブロックチェーン化された、透明性の高い市場です。仕組みを知って、自分の支払い証跡をきちんと残しておけば、必要以上に恐れることはありません。契約のどこを確認すればいいか不安な方、いま進めている契約書を見てほしい方は、よろしければ個別相談で一緒に確認させてください。判断はご自身のものですが、現地の目線でお手伝いできます。
本記事は、鈴木駿登が現地ドバイ/UAEでの実務を通じて見聞きした事実と、その経験にもとづく見解をまとめたものです。投資の成果や将来の価格・利回りを保証・約束するものではありません。不動産・税務・法務の最終的な判断は、必ずご自身と各分野の専門家の確認のうえで行ってください。記載内容は2026年6月時点のものです。
